会計事務所の人時生産性の実態と目標

会計事務所の人時生産性は事務所により大きく異なります。
業務改善への取組み度合いや年間平均顧問料など、事務所経営によって差が出る人時生産性について、会計業界の平均的な水準と目標とすべき水準について考えます。是非お読み下さい。


別のコンテンツ 生産性向上の考え方と工数分析では生産性を次のように定義しました。

生産性 = 付加価値 ÷ 総工数 = 人時生産性

この定義に添って、会計事務所の人時生産性の実態はどのような水準なのか、またどの程度の水準を目指せばよいのかについてご一緒に考えたいと思います。

会計事務所の人時生産性はどのくらいか?

会計事務所の一般的な人時生産性はどのくらいでしょうか?
まず、総務系や臨時雇用などの方を含む全ての方の工数を含めた生産性について考えます。

会計事務所の経営環境でお伝えしたように、2016年のサービス産業動向調査と経済 センサスのデータから算出した会計事務所の主要データは次の通りでした。

1事務所平均売上     53,354千円
会計事務所従業員数   177,318人 (臨時雇用・派遣を含む)
1事務所平均従業員数      5.7人
1人当たり売上高      9,390千円

仮に、上記の1人当たり売上高を、ひとり年間就業時間2000時間で実現していれば人時生産性は次のようになります。

1人当たり売上高9,390,000円÷就業時間2000時間=4,695円/時間

上記の就業時間2000時間というのは、「臨時雇用・派遣の工数はもっと短いのではない か?」「職員の工数はもっと多いのではないか?」といったご指摘があろうかと思います。
それらを加減して差引ゼロと仮定して、ざっくりと見た場合、会計事務所の一般的な人時生産性はこのデータに近いと思います。

この会計事務所の人時生産性は、組織規模によっても事情が変わります。

●所長先生が中心になって稼ぐ小規模事務所ではもっと人時生産性が高い
●顧問先を拡大し投資で人材採用をしている事務所は、稼げる人が少なく全体の人時生産 性は高まらない
●様々なプロジェクトに取り組む事務所ではその工数が増え、人時生産性が伸びない
●大規模事務所では、管理工数が増え、人時生産性が伸びない

といったものです。

生産性向上活動を展開する事務所様では、「現状の人時生産性をどのくらい改善するのか」 という「個別の目標設定」が必要です。

例えば、上記の平均的な人時生産性4,695円を「毎年10%改善する」という目標設定 をした場合改善後の金額は次のようになります。

●現在4,695円、1年後5,164円、2年後5,680円

この例の場合、人時生産性の差額は「5,680円-4,695円=985円」となりますので改善を金額に換算すると次のようになります。

●985円×2000時間✕5.7人=11,229千円

上記の平均売上は、53,354千円ですから、大変大きな改善効果となります。

監査担当者の人時生産性はどのくらいか?

生産性向上は、人数に占める割合の多い監査担当者の業務の改善によるところが多いと思いますので、次に監査担当者の人時生産性について考えます。
上記の、1事務所平均従業員数5.7人には、総務・経理などの皆さんも含まれますので 監査担当者の人時生産性は、もっと高いものでなければなりません。

一般的に、一人くらいは育成要員として採用していたり、入力担当がひとりいたりするケー スが多いので、「顧問先を担当する監査担当者4人」だとすると次のようになります。

1事務所平均売上53,354千円÷監査担当者4人=1人当たり売上13,338千円
人時生産性=13,338,000円÷就業時間2,000時間=6,669円/時間

この規模では、所長先生が稼ぐ比率が高いので、職員さんの人時生産性に限定するともっと低い数値になるでしょう。

例えば、次のような構造です。

●所長先生 20,000千円÷2000時間=10,000円/時間
●ベテラン 15,000千円÷2000時間= 7,500円/時間
●3年目  12,000千円÷2000時間= 6,000円/時間
●新人    6,000千円÷2000時間= 3,000円/時間
●職員合計 33,000千円÷6000時間= 5,500円/時間
●合計   53,000千円÷8000時間= 6,625円/時間

大きな事務所であれば、上記の「所長先生が監査課のリーダーに該当」「ベテランがサブリーダーに該当」といった構図になるのではないでしょうか?
また、大きな事務所では、管理工数やプロジェクト工数が増え稼働率が下がったり、管理職の労働時間が長くなるので、上記よりも人時生産性が低いかもしれません。

上記の数値を画一的に当てはめて比較するのでなく、個人の実情にあわせて毎年一歩づつ改善して頂きたいと思います。

顧客別の時間チャージについて

次に、顧問先別の時間チャージを考察します。

直接顧問先を担当して売上をあげるのは監査担当者ですが、その全てが直接売上を稼ぐ時間ではありません。「監査面談・所内監査・会計入力・決算書申告書作成」などの「稼働時間」が稼ぐ時間です。加えて「移動、別案件の調査・研究、電話やメールの相談対応」といった「段取り時間」も顧問料を頂く為に必要な時間です。

従って、「監査担当者の人時生産性の金額を(稼働率+段取時間比率)で割り戻した金額」が顧客の必要時間チャージとなります。

先程計算したように、会計事務所の平均売上53,354千円を、監査担当者4人で対応した場合には、1人当たり売上13,338千円となり、それを就業時間2,000時間対応した場合の人時生産性は6,669円/時間でした。

これには、所長の稼ぎと時間が含まれますので、ここでは職員さんだけの人時生産性の仮定値5,500円/時間を使用して考えます。
これを仮に「稼働率+段取時間比率=75%」として割り戻すと次の通りです。

●5,500円÷75%=7,333円/時間

これらから、一般的な職員さんの1時間当たりの顧客へのチャージについては

●まず平均8,000円/時間を目指す
●次いで、9,000円/時間を目指す

という水準で検討して頂くのがひとつの目安であると考えます。

但し、事務所の状況や個人別の時間チャージの実績が異なりますので、個人の実情にあわせて毎年一歩づつ改善して頂きたいと思います。

最後に

人時生産性の向上には、「稼働率を高める」「稼働時間を合理化する」「付加価値を高める」の3つの改善の方向性があります。
事務所の実情によってどこを改善するのが効果的かは異なますが、実態を分析してポイントを抑えた改善活動を推進すれば効果は生まれます。

また、人時生産性の現状も事務所や人によって大きく変わります。データを採取して毎期適切な水準の目標を立てて改善を進めて頂ければと思います。
また、個別テーマの改善策については関連するコンテンツでご研究下さい。