稼働率を高める

会計事務所の人時生産性の向上のひとつの方向性は稼働率向上です。
稼働率とは、総時間に占める稼働時間の割合ですから、非稼働時間(稼働時間以外の時間)の削減を考える事になります。
ここでは、稼働率向上の具体的な改善視点についてお伝えします。是非お読み下さい。

稼働率とは何か?

別のコンテンツ生産性向上の考え方と工数分析では生産性の算式に、「稼働時間」を加味して次のように分解しました。

生産性=稼働時間/総時間(稼働率) ✕ 付加価値/稼働時間(パフォーマンス)

稼働率とは、総時間に占める稼働時間の割合を指し、稼働時間とは「直接付加価値を生む時間」を指します。
生産性向上の考え方と時間分析では次のような項目をあげました。

・監査面談(税務監査・報告・相談対応など)
・所内監査
・記帳代行作業
・決算・申告書作成
・コンサルティング(MASなど)
・調査立ち合い
・契約外業務で対応せざるを得ないもの など

この稼働時間をより多く確保しようとすると、段取り時間・非稼働時間を削減する必要がある訳です。

段取り時間とは次のような時間を指します。

・移動
・個別案件の調査
・研究
・電話やメールの相談対応
・資料探し など

 

また、非稼働時間とは次のような時間を指します。

・研修
・OJT
・会議 など

これらの時間削減について具体的に考えてみましょう。
ここからの記載内容はあくまでも「例えば」という事ですので、ご自身の事務所の「問題の発見」と「改善のアイデア出し」を目的にお読み頂けると幸いです。

段取り時間の改善を考える

段取時間の代表例について、その改善をご一緒に考えてみましょう。

(1)移動時間を削減する

監査担当者にとって移動時間は結構な負担になりますが、移動しなければ顧問先と面談ができずに仕事になりません。
なるべく少ない移動時間にする方法を考えなくてはなりません。

①同方向訪問で1社あたりの移動時間を短くする
 

これは多くの監査担当者が取り組んでいる方法でしょう。
顧問先も納得するタイミングで、監査担当者にとっても効率的な訪問活動を行うには「早めにポイントを入れる」という事が大切ですね。
3ヶ月先までのアポイントとか、年間アポイントとかを励行している方もいますね。

新人監査担当者などはこの点が徹底できてない方には先輩が指導して頂ければと思います。

②営業エリアを限定して移動時間を減らす

会計事務所の新規顧問先拡大は紹介によるものが多いと思います。
もちろん紹介は有難いものですが、事務所から遠くの顧問先を紹介され契約すると後々移動時間が増える事になります。
対応エリアを限定するとか、遠方は若干の移動チャージ見合いの顧問料も頂くとかの工夫が必要です。
販促をしている事務所では、エリアを限定して販促活動を行う必要もありますね。

③来社型面談で移動時間を無くす

最近は、顧問先に来社して頂くスタイルのサービスも増えてきたようです。
新規商談の際に、訪問型と来社型で若干の顧問料の差をつけている事務所もありますね。
経営者には、「事務所に伺って話した方が落ち着いて集中できる」という方もいるようです。来社型サービスは合理的で良い対策だと思います。

④オンライン面談で移動時間を無くす

若手会計事務所などで最近よく見られるのが、オンライン面談です。
SkypeやZOOMといたweb会議システムを使った面談サービスです。
web会議システムは移動時間削減だけでなく、面談時間の効率化・時間短縮にも効果があります。
実際の面談と違い、双方が事前準備を充実したり当日の無駄話も減る傾向にあり時間短縮につながります。
もちろん顧問先との無駄話も大切な時間だと思います。
それはそれで同方向に移動した際に少し立ち寄るなどの配慮があってもいいのではないでしょうか?

(2)個別案件の調査・研究時間を削減(効率化)する

個別案件の調査・研究時間とは、税法的な問題をひも解く時間や顧問先からの質問に対
応するために調べものをする時間を指します。
監査担当者は、調べもの蓄積で判断能力が高まる側面がありますので、一概に調査・研
究時間をゼロにするのがいい訳ではありませんね。
かと言って、長時間を調査・研究に割いていると人時生産性が下がってしまいますので
どのような判断基準が良いのか迷うところです。
例えば、「30分程度調べて目処が立たないテーマは見識者に聞く」といった所内ルー
ルを決めて実行してみるのも良いと思います。

(3)電話やメールの相談対応

「今日は、一日中電話やメールによる相談対応で仕事に集中できなかった」という事はないでしょうか?
知的ワークの場合、集中して生産性があがる時間は1.5時間~2時間と言われます。
この思考業務が電話やメールで分断されると生産性はがた落ちですね。
顧問先からの連絡は要件を分析してみては如何でしょうか?
重要な相談のアポ、前回説明した事の質問、システムの使い方等、色々あると思います。
これらの中で、アシスタントや総務の方に対応頂けるものはないでしょうか?
ベテランの皆さんは、部下や後輩からの質問も多いのではないでしょうか?
緊急時効は別としてなるべく所内の質問時間帯を1日にいくつか決めておく事もいい
かもしれません。

(4)資料探し

監査担当者は、様々な資料を確認して業務の判断をします。
その際、判断材料となる資料を探す時間が多くなっていませんか?
最近は、資料の電子化やファイリングに尽力される事務所が増えていますね。
フォルダやファイルの管理体系を整備したり、ルールを徹底したりする事務所が増えているようです。

非稼働時間の改善を考える

次に非稼働時間の代表例について、その改善を考えてみましょう。

(1)研修工数を減らす・絞る

会計事務所は研修受講が多い業界だと思います。
資格維持の為の研修などは別として、様々な研修を受けている時間は付加価値を
生みません。その研修を活かして行動して何らかの成果を生むことに意義があります。
その研修は「事務所の目的・方針に沿っているか?」「内容は成果を生み出せるものか?」
など研修内容や受講後の活動・結果をもっと評価すべきなのかもしれません。
私どももMASノウハウを集合型コンサルティングで提供する会社ですので、少し汗をかきながら書いていますが・・・。

(2)OJTを効率化する

※OJT:On-The-Job Training 職務現場において業務を通して行う教育訓練のこと
人材育成の為には、OJTは不可欠ですね。
多くの事務所では研修とOJTを組み合わせて人材育成に取り組んでいると思います。
特に新規顧問先拡大が進み、組織が成長している事務所では、常に採用・人材育成の繰り返しで、ほとんどがプレイングマネージャーである管理者クラスの時間的負担が大きくなっているように感じます。

OJTは、その内容を分解して改善を考えてみると良いかもしれません。
一般的にOJTでは、4段階の指導法を用います。
「やってみせる(Show)」「説明する(Tell)」「やらせてみる(Do)」「確認し追加指導を
する(Check)」という4段階です。
例えば、「やって見せる」「説明する」「やらせてみる」に時間を取るのは仕方ないでし
ょうが「確認して追加指導をする」は如何でしょうか?

・先輩や上司が全て見て確認する
・まず自分で確認させて、その上で先輩や上司が需要な点を確認する

この2つでは大きくOJT時間が変わります。

また、よくOJTの教育ツールとして「マニュアル」「チェックリスト」などを作ったります。
大きな会計事務所では既にこのようなものは整備されていると思いますが、これからマニュアルを作成する事務所は大変な作業になると思います。
例えば、次の2つの方法のどちらが効率的で効果的でしょうか?

・見識者がマニュアルを作って渡す
・見識者が口頭説明して、マニュアルを必要とする人が作りチェックしてらう

後者の場合、比較的見識者の時間を要さず、マニュアルが出来上がった時点で既にマス
ターしているという効果も期待できます。
マニュアルの完成がゴールではなく、機能する人材を創るというゴールを設定すれば
よい規模であれば、このような方法も良いかもしれません。

(3)会議を効率化する

規模が大きくなるほど、会議時間は大きくなっていきます。戦略の立案、方針の浸
透、品質管理、工程やコスト管理・・・等々、全社や部門で検討する事が増えてき
ますね。

「結論の出ない会議」はないでしょうか?

会議のゴールは、意思決定・実行項目の決定にあるとすれば、結論のでない会議は
無駄なものとも言えます。
もちろん皆で揉んで、後日よい施策が浮かぶこともありますが・・・。
最近は、チャットワークなど便利なツールが出ています。
例えば、議題毎に参加者グループを作り、チャットで事前に情報共有・問題意識・
出すべき結論・その意見を共有しては如何でしょうか?
顔を合わせた会議は、「結論を出す場」にならないでしょうか?

最後に

会計事務所は、比較的稼働率の高い業種だと思います。
しかし、付加価値を生むために納期に追われ、品質に大変気を使わなくてはならない仕事です。
もし、削減可能な段取り時間や非稼働時間があれば改善したいものです。
具体的な項目ごとに、改善案を検討してみて頂ければと思います。