生産性向上のベースとなる組織風土をつくる

会計事務所は人材が付加価値を生むビジネスですから、働く人のマインドと能力・業務への取り組み方で大きく生産性が変わります。
この点に配慮を下うえで生産性向上を考えないとなかなかうまくいかない側面があります。
ここでは、生産性向上のベースとなる組織風土の作り方についてお伝えします。是非お読み下さい。

生産性向上に取り組むマインドは醸成されているか?

会計事務所の多くの経営者は生産性向上が不可欠であるとお考えだと思います。

では、職員様の本音はどうでしょうか?
会計事務所業界でも生産性向上に対する意識は高まっているとは感じていますが、もしかすると次のような気持ちを持った方はいないでしょうか?

●今でも一生懸命頑張っているのに、これ以上生産性を高めるのは無理だよ!
●今までのやり方を続ければそれでいいのでは?
●顧問先の実態を考えると、生産性向上なんて難しいですよ!
●専門知識を学べ、それを活かせる仕事だから会計事務所に就職したのに、工場みたいに
生産性向上に取り組まなくてはならないの?

また、良かれと思って生産性向上のために、製販分離や業務の自動化に取り組んだのに、

●人の退職が発生した
●職員のモチベーションが下がった気がする

という話をお聞きします。

「方針に沿わない職員は辞めてもらってよかったよ」というのも一理あります。
組織のイノベーションに際しては人材の新陳代謝もやむを得ないというのも事実です。

しかし会計事務所は、コストをかけて人を採用し、一生懸命人材育成に取り組み、数年かけてやっと稼げる人材になっていくモデルであり、育てた人材の退職は事務所の成長に大きなダメージを与えます。

もちろん、経営者として職員に迎合するのは良くありません。
しかし職員の共感を醸成しながら生産性向上に取り組む方が経営者・職員双方にとってハッピーな結果を生む事は間違いありません。

会計事務所は、「働く人が知的サービスを提供して付加価値を稼ぐ」ビジネスモデルです。
知的サービスの生産性は「人のマインドが生産性に大きな影響」を及ぼします。
これは、各種の専門サービスやシステム開発・クリエイターなど他の職種でも全く同じ傾向にあります。

「生産性向上に取り組むマインドは醸成されているか?」この点は会計事務所の生産性向上に大きく影響するテーマです。

生産性向上の目的・目標は何か?

生産性向上に職員が意欲的に取り組む事務所とそうでない事務所にはスタート地点で大きな相違点があります。
職員が意欲的に生産性向上に取り組んでいる事務所には次の特性があります。

●生産性向上を実現できた時、働く人はどうなるのかという目的が明示されている
●生産性向上とは、定量的にどのような状態を目指すのかというゴールが明示されている

(1)生産性向上の目的明示

生産性向上が実現できた際には、捻出した時間を何に使うのでしょうか?
もちろん、経営的な視点では「空いた時間でもっと担当を多く持ってもらいたい」「付加価値業務で稼いで欲しい」というのが本音だと思います。

一方で、生産性向上の「働く人にとっての価値」も併せて明示する方が職員も本気になって取り組むマインドが醸成されます。

事務所経営のメリットと職員の人生の充実や働きがいの両面を満たせるような「生産性向上の目的の設定」をして頂いては如何でしょうか?

事務所の方針と職員のニーズにもよって、例えば次のようなものが考えられますね?

生産性向上の目的の設定

このような目的の設定について、職員と十分に話し合い納得感を醸成した上で改善活動に取り組まれるべきだと思います。

(2)生産性向上の定量的目標の明示

生産性向上の活動に取り組んでおられる事務所に、よく次の事をお聞きします。

●生産性向上とは、どのくらいの時間チャージを目指しておられますか?

案外、この問いに明確にご回答頂けないケースが多く見られます。

●まず製販分離に取り組むんだよ。
●マニュアルを作るのが先でしょう?

これは大きな間違いであると言わざるを得ません。
製販分離もマニュアル作成も「手段」にすぎません。

●製販分離より、監査担当者にアシスタントを付けた方が生産性が向上する
●マニュアルよりもトレーニングの方が実効性が上がる

といった組織もあるのです。
その場合は、製販分離やマニュアル化よりも、上記のような施策を取る方が賢明です。

生産性向上のために、まず取り組むべき事はどの位の生産性を実現するのかというゴールです。
そのゴールに向けて最も有効な施策を講じるのが生産性向上の原則です。
製販分離やマニュアル化が有効な場合も、

 ●現在の人時生産性をどのくらい向上させる為の活動なのか?

という目的・目標を先に設定する事が重要です。

定量的な生産性目標の設定については、会計事務所の人時生産性の実態と目標をお読み頂き参考にして頂ければ幸いです。

生産性向上活動の正しい進め方

これまでお伝えした内容をまとめ、職員の生産性向上に向けた意識を高めて実のある活動を展開するためのプロセスは次のようになります。

①目的を明示する
 :会計事務所経営とそこで働く職員双方にとって価値のある活動目的を設定する
②目標を仮設定する
 :目標とすべき人時生産性や関連する指標について仮設定し共有する
③実情を把握する
 :工数データを採取・分析し、改善すべきテーマと指標改善のレベルを共有する
④目標の本設定をし、GAPを埋める施策を考える
 :現状を踏まえた適切な目標を本設定し、改善のための施策を立案する
⑤PⅮCAサイクルを回す
 :改善策を実行し、効果性を指標で評価し、見直すというPⅮCAサイクルをまわす。
⑥改善成果を職員の働き方や報酬に反映する
 :目的に沿って、徐々に職員の多様な働き方ができるように組織運営を変革する。

最後に

会計事務所の生産性向上のためには、根気強い取り組みが必要です。
その為には、職員が生産性に取り組む意欲を喚起し、それが当たり前と思うような組織風土づくりが不可欠です。
生産性高上の正しい取り組みによって成果を勝ち取って頂きたいと思います。