会計業界は「AI・クラウドで業務がなくなる」「企業数が減少」「顧問料が更に低下」など、とかく暗い話が多い会計業界です。
でも、そんな事はありません!『会計業界は今からがおもしろい!』と私はそう思います。
会計業界には強みがあります。その強みをベースに新たなビジネスモデルをリ・デザインすれば、高付加価値型・成長経営を実現する事が可能です。
経営環境を俯瞰し、事務所の方向性を見出して頂きたいと思います。是非お読み下さい。
会計事務所市場は、2012年~2016年に124%成長
まず、過去の会計業界の市場について考えます。
総務省のサービス産業動向調査によると、会計事務所(税理士事務所・公認会計士事務所)の市場規模(売上合計)は以下のように推移しています。
会計事務所の市場は、2012年の1兆3392億円から2016年には1兆6650憶円へと124%成長しています。
これは、金融緩和策と海外経済の好転を背景に輸出企業が好調であった事や、2020年の
東京オリンピック・パラリンピックによる投資拡大などで企業の業績が改善された事、加えて相続税申告の市場が拡大した事によるものと思われます。
会計事務所数は約31,000事務所と横ばいであり、1事務所あたり売上は2012年42,893千円から2016年53,354千円と124%成長しています。
会計事務所従業員数(臨時雇用・派遣を含む)は、約169千人から177千人に増加、
従業員数一人あたり売上は7,882千円から9.390千円と119%成長しています。
会計事務所でも近年生産性向上への意識が高まり様々な取り組みがなされているとは思い
ます。ただ、相続税申告の増加分が含まれており、5人~10人の事務所では相続税申告を
所長先生に依存しているケースもあるため、実質的な職員一人あたり売上は、所長の付加価
値アップ分を差し引いて考えるべきかもしれません。
1事業所あたり売上高も348千円から465千円と増加していますが、この点も会計事務所売上高には相続税申告の収入も含まれるためその分を割り引いて分析すべきかと思います。
それを割り引いて考えても法人市場の年間顧問料は横ばいまたは若干の増加傾向にあるとみてよいでしょう。
世間で言われている顧問料の価格破壊というレベルの現象はこれらのセカンダリーデータからはまだ見られない状況です。
確かに、新設法人に対して低価格攻勢をかけている事務所もありますが、既設法人市場の顧
問料にはさほど影響が出ていないというのが現状ではないでしょうか?
以下、法人市場の今後について考察していきます。
会計事務所業界のマイナスの環境
世間で言われている会計事務所業界のマイナスの環境について確認しましょう。
(1)企業数の減少
会計事務所の主要市場である中小企業数は、下図のように減少しています。
その要因は主に ①経営者の高齢化と事業承継難 ②新設法人数の減少、の2つでしょう。
確かに主要市場が減少する訳ですから大きなマイナスの側面です。
(2)顧問料の低価格化
会計事務所業界の広告規制が緩和されて以降、マーケティングが得意な会計事務所が成長しました。このマーケティングではHPに顧問料が掲載され中小企業経営者、特にスモールビジネスや新設法人の経営者に顧問料の相場として認識されました。
またバブル崩壊やリーマンショック等による中小企業の経営業績の悪化から顧問料のコストダウン意識も高まりました。
そして、最近ではAI・クラウドによる会計業務の自動化がうたわれ、よりコストダウン志向が高まってきています。独立して間もない若い会計事務所では、AI・クラウドを駆使して安くても採算がとれる仕組みを構築して顧問先を拡大しています。
入力代行や税務といった基本的業務の価格は低下していく傾向にあります。
(3)採用難
日本の労働人口は減少している訳ですから基本的に優秀な人材は採れなくなるのが大きなトレンドでありましょう。
リーマンショック後は比較的採用環境が緩み人材採用は比較的容易でしたが、アベノミクス以降、特に東京2020を控えた近年は大変採用が難しい環境が続いています。
採用環境は景気の影響で厳しくなったり緩くなったりしますが、大きなトレンドとして採用環境は難しくなる方向だと思った方がいいと思います。
という事は、採用コストや人件費は上昇傾向が予想され、会計事務所の収益を圧迫する事が十分考えられます。
また、顧問先が増えても業務に対応するキャパシティが確保しにくいという事になり売上を上げられない要因となります。この点は別の号で詳しく検討したいと思います。
これらの詳細は、関連記事「会計事務所の生産性」の項でご覧ください
これらのマイナスの経営環境を考えると、確かに従来の会計事務所のビジネスモデルのままでは収益性は低下していく事が予想されます。
①売上高=顧問先数(↘︎)×平均年間顧問報酬(↘︎)
②人件費=人数×平均年棒(↗︎)+法定福利費(↗︎)+採用コスト(↗︎)+教育費
③人件費に伴う経費:地代家賃・システムコストも増加
↓↓↓↓↓
◆売上減少圧力に加えて、50%を占める人件費及び関連コストが上昇、低収益
しかし、この事は会計事務所業界がダメになるという事ではありません。
成長を志す会計事務所には、『ビジネスモデルのリ・デザインが必要になった』という事を意味します。
会計事務所業界のプラスの環境
一方、会計事務所業界には成長志向の事務所が成長できる大きなプラスの環境があります。
(1)企業の殆どが必要とする業界 (安定した市場の存在)
まず着目すべきは税務顧問の普及率の高さです。約360万社の中小企業の殆どが税務顧
問契約を結んでいます。これだけ高い普及率を誇る法人向けサービスはまれで、それだけ会
計や税務に関する専門サービスの市場が存在するという事です。
(2)約3万事業所が存在する業界 (イノベーターが伸びる業界)
一方その専門サービスを提供する会計事務所は約30,000件あります。これは典型的な
「シェア分散型」の業界であると言えます。シェア分散型の業界では経営力のある事業者や
新しいビジネスモデルを開発した事業者が大きなシェアを持つことになります。
市場の大きさと合わせて考えると意欲溢れる事務所にとっては極めて恵まれた環境である
と言えます。
(3)積上収入型で解約しにくい業界 (新規拡大効果が大きい)
また、会計業界の収入モデルは毎月の顧問料で安定し、1件新規開拓するごとにそれが積上げられ継続するものになっています。かつ解約率の低い業界であり、この収入の安定性は極
めて魅力的なビジネスモデルであると言えます。この安定型収入モデルは1件の新規開拓
効果が大きい事を意味します。
(4)会計を握っている業界 (企業の本当の姿が丸見え)
会計事務所の最大の強みは、会計を握っている事です。お金の動きから企業の姿が丸見えで、問題点にも改善方向にも気づけるポジションにいます。会計の用途の一つである管理会計に活用する事で企業の業績改善につなげる事も可能です。
(5)毎月と面談できる業界 (悩める社長との接点が多い)
中小企業の社長はひとりで経営のかじ取りに悩んでいます。様々な課題に直面し、信頼でき
る人に相談したいというニーズも多いものです。会計事務所はその悩める社長との接点が
圧倒的に多い業界です。
これらの会計事務所の強みを活かし、『新たな戦略・ビジネスモデルを構築』すれば『極めて成長性が期待できる業界』であると言えます。
独自の戦略を持つ会計事務所が成長する時代
会計事務所のプラスの環境、特に『普及率が高く』かつ『シェア分散型市場である』事を考えると、独自の戦略を展開すれば必ず成長経営が実現できます。
今後の会計事務所の成長経営パターンは大きく3方向が考えられます。
(1)ローコスト拡大モデル
単なるディスカウントではなく、ローコストでも採算がとれる仕組みを持つモデルです。
(2)特化モデル
テーマ特化、業種特化、ステージ特化の3つの方向性があります。
(3)経営支援型モデル
経営支援により、顧問先を育成するモデルです。
これらの詳細は「多極化する会計事務所業界」の項でご覧下さい。
「独自の戦略」を持つ事務所が、毎期120%~130%程度の成長を実現する市場は十分に存在します。
最後に
会計事務所市場は2012年~2016年に124%成長しています。
「企業数の減少」「顧問料の低下」「採用難」などのマイナスの環境があり、採用コストや人件費が収益性を悪化させることが予想されますが、「約360万社のほとんどが市場であり」「3万事業所が存在する超分散型市場」です。
これは「独自の戦略」を持つことにより十分に成長できる事を意味します。
このサイトVALUESでは、より好ましい戦略やビジネスモデルを構築する視点をお伝えしますので他の項目も是非お読み下さい。