多極化する会計業界

会計事務所業界は2012年~2016年には124%成長をしていますが、その成長率や今後のマイナスの経営環境を考えるとやはり成熟業界であると言えます。
一般的には成熟業界ではいくつかの成長経営を実現するビジネスモデルが現れます。
ここでは、今後成長可能性のあるビジネスモデルをお伝えします。ご自身の事務所の強みや商圏特性などを考慮し、最適な戦略を見出して頂きたいと思います。是非お読み下さい。

成熟産業では成長するモデルが分かれる

一般的に成熟業界では、競合他社と差別化して成長経営を実現しようとする取り組みがなされ、様々なビジネスモデルが生まれ、その中で「成長性」「収益性」そして「働く人のやりがい」といったいくつかの要素のバランスを満たせるビジネスモデルがいくつか残る傾向にあります。
会計事務所業界は約3万事業所が存在する超分散型業界であり、地域密着型事業ですから、「地域✕モデル」で成長する事務所が出てくるでしょう。
即ち、成功ビジネスモデルが各地域で展開される「多極化」の傾向を見せるでしょう。
また地方都市では、ひとつのビジネスモデルだけで十分な成長が難しく、複数のビジネスモデルを組み合わせて成長していく事務所も出てくるでしょう。
事務所の強み、商圏特性などを十分に考慮し、ご自身の事務所にとって最適なビジネスモデルを選び推進していって頂きたいものです。
ここではいくつかの成長可能性のあるビジネスモデルを提示します。

ローコスト拡大モデル

ここで言うローコスト拡大モデルとは、単なるディスカウンターではありません。
ローコストでも利益を出せる内部体制や契約方式をビジネスモデルとして確立した戦略手法で、例えば以下のような取り組みがなされています。

●移動工数削減のための来社面談
●通信手段を用いたコミュニケーションの仕組み
●web上での資料のやりとり
●記帳代行工数削減のための自動化・外注化  など

このような様々な取り組みで、「顧問料は安くても時間チャージが確保できるモデル」を構築して市場を拡大する戦略です。

創業間もない事務所やwebやITに強い事務所で、一定の収益や顧客構造を確保する際には有効なビジネスモデルであると言えるでしょう。

ただし、組織的な事務所経営を志向する場合、ローコスト拡大のままでは件数の拡大でしか売上を伸ばせないので「職員が疲弊」したり「将来への夢が持てない」という状況になってしまうケースも多くあります。
どこかのタイミングで、高付加価値化への取り組みも必要になると思います。

ローコスト拡大モデルのターゲットは主として、新設法人・スモールビジネスでしょうから、付加価値アップの方向性は、次のようなものになるでしょう。

●融資支援
●財務モニタリング
●成長経営支援

適切なタイミングでこのような機能を持ち、「顧問先育成型事務所への転換」を目指す道もあると思います。

特化モデル

 

特化モデルには大きく3つの特化領域があります。

(1)テーマ特化

資産税、海外税務といった成長性があり高付加価値な特定分野に特化した戦略展開です。 既に多くの事務所が展開している戦略ですが、まだ市場成長の余地があり、取り組み次第ではまだ面白い戦略ですね。
テーマ特化には専門的な人材が必要ですので、

●人材確保の仕組みを持つ
●独自の人材育成の仕組みを持つ

などの取組みが必要です。
そうは言っても人材確保も育成も容易ではありませんので、

●ルーチンワークの工場化・自動化・外注化

といった施策で、優秀な人材が付加価値業務の稼働率を高められる施策が必要と思われます。
また、地方都市ではテーマ特化だけでは十分な市場がなく、他の戦略との組み合わせが必要になると思われます。

(2)業種特化

医療・建設・飲食・美容・ITといった特定の業種に特化して拡大する戦略です。 業種特化のメリットは以下の通りです。

●業種ならではの情報やノウハウが蓄積され生産性の高いビジネスモデルが構築できる
●会計データだけでなく業種固有のKPIデータのデータベース化ができる
●その分野に詳しい人材を育てやすい

これらは、付加価値業務としてのコンサルティングにも応用できるノウハウ・情報資源です。 業種特化でローコストだと生産性向上につながらず、職員の疲弊に繋がる可能性がありますので、業種特化だからこその高付加価値型モデルを追求する事をお勧めします。

また、永久にひとつの業種に特化し続ける必要はありません。ひとつの業種で一定量の顧客構造を構築出来たら、類似したマネジメント要素を持つ別の業種にチャレンジするのも良いと思います。

●ひとつずつ業種特化を成功させる、複数業種特化モデル

も大変おもしろいビジネスモデルになるでしょう。

(3)ステージ特化

 

新設法人・成長期・事業承継期といった企業の成長のステージに特化する戦略です。 それぞれ次のような支援を行うビジネスモデルが出現しています。

●新設法人
スタートアップ時の最低限の経営管理体制構築、創業融資、財務モニタリング支援
●成長期
売上拡大に伴う資金安定化、組織成長に伴い見えなくなる経営をミエルカするIT支援
●事業承継前
後継経営者の選定・育成、事業承継計画、各部門の承継(若返り)
●事業承継後
3つの作り直し支援
(ビジネスモデルの作り直し、組織の作り直し、バックオフィスの作り直し)

どのステージをターゲットとするかについては事務所の人材のスキルも大きく影響します。
例えば未経験の新人が多ければ、やはり新設法人の方がやりやすい、といった事です。
事務所の商圏特性、組織面での強み・弱みなどを考慮して選択したいものですね。
もちろん、豊富な人材を有する事務所の場合は、複数のステージ特化を推進してもいいと思います。

高付加価値化については関連記事「高付加価値化3つの展開軸」をご覧ください。

経営支援型モデル(顧問先育成型会計事務所)

これはインターフェイスが提唱しているモデルで、法人市場を中心とする全国の会計事務所で汎用性がある戦略で、会計という強みを業績改善につなげるように活用して企業を育成する「顧問先育成型モデル」です。
もちろん税務とは別にコンサルティング料を頂くモデルですから高付加価値型の経営が実現でき、指導成果により口コミ紹介が増えるモデルです。
このモデルは、関連記事「MASをビジネスモデルに組込む価値」で詳しくお伝えしますので、関心のある方は是非ご研究下さい。

IT支援型モデル

会計業界に大きな影響を及ぼすテクノロジーの進化は、顧問先のどの業界でも起きている現象であり、多くの中小企業はその対応ができず悩んでいます。ITに精通した社員を雇用できれば別ですが、難しいのが現状でしょう。
このテクノロジーの進化を経営に組み込んだ企業とそうでない企業には大きな収益性の差が生まれて然るべきです。
そのITの最適化支援を会計事務所が出来るようになれば大きな差別化になります。
IT支援は専門性があるため、漠然と取り組むことは難しいと思います。
例えば次のようにステージ別や業種別に絞り込んでIT支援を行えばノウハウの蓄積も早く営業効果も高いと思われます。

●業種別の場合 例)飲食店
POSレジ導入支援とクラウド会計の連動でバックオフィスを合理化し、KPIも見えるように支援する
●ステージ別の場合 例)事業承継後
高齢化したバックオフィスの人材の承継に関連して、複数のソフトの連動やクラウド化・自動化の支援をする など

IT支援については、関連記事ITO(Information technology optimization:情報技術最適化)の需要拡大でも詳しく触れています。

最後に

このように、成熟期にある会計事務所業界の成長ビジネスモデルはひとつではなく、色んなパターンが出てきます。ここに記載したビジネスモデル・アイテムに地域密着型ビジネスである点を併せ考えると、今後、会計事務所業界は、

二極化から、「多極化」へと進み、最適な戦略を持つ事務所が成長する。
そして、イノベーションしない事務所が縮小する

と思われます。

また、戦略の選択及びビジネスモデル化の際に、大変重要な事があります。
それは「高付加価値化を意図する」という事です。
会計事務所は、まだまだ人的サービスに依存する事業です。
例えば「移動時間を短縮」するために来社型契約やチャットワーク等の通信手段を使ったコミュニケーションを導入したり、「記帳業務を合理化」するためにAI・クラウド会計やOCR活用の取組みをしたりしても、最後は結局「人と人の接触によるサービス」が付加価値を生むことになります。
その人的サービスがローコストであれば必ず「一番大切な人材」に疲弊感や将来への夢が持てない組織となってしまう可能性があります。
「人的サービスを高付加価値にするビジネスモデル」が組み込まれる事が今後の成長経営にとって大変重要な事になると思います。